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LEDと誘引剤を組みあわせたキノコバエ捕虫器の開発  2012-12-05

●徳島県立農林水産総合技術支援センター キノコ生産担当 阿部正範  

 
背景と概要
 徳島県は、生しいたけの生産量が8,757t(平成22年)で、全国一位の生産量となっている。また、生産量のうち、99%以上が菌床による生産であることから分かるように、徳島県は、菌床しいたけの栽培が非常に盛んな県である。
 
ナガマドキノコバエ
 ところが、菌床しいたけ栽培が盛んになるにつれ、ナガマドキノコバエ(右写真:ナガマドキノコバエ成虫)の異常発生による被害が問題になってきた。ナガマドキノコバエの被害は、幼虫によるしいたけの食害に加え(坂田ら、1999)、幼虫が付着したしいたけが流通する「異物混入」などがある。生産者とって、「異物混入」を防ぐ労力は甚大である。温暖化が一因となっていると思われる、冬期においても栽培舎内での異常発生による被害が顕在化しており、深刻な問題となっている。
 このような、深刻な被害をもたらすナガマドキノコバエであるが、菌床しいたけ栽培では本害虫に対する農薬が登録されておらず、防除に農薬は使用できない。そのため、農薬に頼らない防除技術として、LEDと誘引剤を組みあわせた強力なナガマドキノコバエ捕虫器を開発した。
 なお、本報告は、平成19~21年の新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業「菌床シイタケ害虫ナガマドキノコバエの環境保全型防除技術の開発(No.1958)」(北島ら、2011)により実施した成果の一部である。
対策
 既存の研究から、ナガマドキノコバエ成虫が光や乳酸発酵液に誘引されることが明らかになっていた。このため、両者を組み合わせた誘殺器の開発を目的とした。
 ところで、発光ダイオード(LED)は、消費電力が少ない、特定の波長が簡単に利用できる、防水構造が容易などの特長(大谷、2006)がある。そのため、散水、高湿度といった菌床しいたけ栽培舎内の光源として優れていると考えられた。そこで、誘殺器の誘引光源にはLEDを用いることとし、誘引効果の高いLEDと誘引剤の選抜、および、これらの組合せによる誘引効果を検討し、商品化をおこなった。
 
①効果的な誘引光源の解明
 効果的な波長を選抜するために、黄(ピーク波長:560nm)、紫(405nm)、近紫外線(375nm)の3種類のLEDを比較した。これらのLEDと捕虫用水盤を組みあわせて誘殺トラップを作成し、栽培舎内に設置して、トラップに捕殺された成虫数を調べた。
 その結果、紫LEDと近紫外線LEDの誘殺効果が高いことが判明した(図1)。また、近紫外線LEDは紫LEDよりも安価であるため、近紫外線LEDを誘引光源に採択した。さらに、近紫外線LEDは、羽化2日以内の処女メスの97%を誘引でき、しいたけの発生に影響を及ぼさないこともわかった。LEDの明るさは、電流値で調節できる。そこで、21mAと3mAの電流値で誘引効果を調べたところ、効果に差がなかったため、明るさ(電流値)は3mAとした。
 
LEDの種類別捕獲頭数
図1 LEDの種類別捕獲頭数
異なるアルファベットは有意差があることを示す

 
②効果の高い誘引剤の選抜
 ポリカップの内側に粘着シートを取り付けたトラップを作成し、誘引剤として3%砂糖水に市販ドライイーストを3%添加したもの、畜産用乳酸発酵液(PF-S、カルピス株式会社製;以下、乳酸発酵液と表記)、水道水、およびコバエ用誘引剤(固形、カモ井加工紙株式会社製)を投入し、トラップに捕殺された成虫数を調べた。
 その結果、誘引効果は乳酸発酵液が高いことが判明した(図2)。ナガマドキノコバエは、菌床の発酵臭に誘引されると考えられる。ナガマドキノコバエに対する乳酸菌飲料の誘引効果は、新田(2004)も報告している。ナガマドキノコバエにとって、乳酸発酵液や乳酸菌飲料の匂いは、菌床の発酵臭と似ているため誘引効果が高いと思われた。以上のことから、誘引剤は乳酸発酵液を採択した。
 
誘引剤別の捕獲頭数
誘引剤別の捕獲頭数
図2 異なるアルファベットは有意差があることを示す.
Y:3%砂糖水+3%ドライイースト,F:畜産用乳酸発酵液,
K:コバエ用誘引剤,B:水道水

 
③LEDと乳酸発酵液の組合せ
 3種類のトラップ、L(近紫外線LED+水道水と中性洗剤を入れた捕虫用水盤)、L+F(近紫外線LED+乳酸発酵液を入れた捕虫用水盤)、およびF(乳酸発酵液を入れた捕虫用水盤)を栽培舎内に設置し、各トラップに捕殺された成虫数を調べた。捕殺数はL+Fが、他のトラップに比べて多くなり、近紫外線LEDと乳酸発酵液を組み合わせることで、単独使用に比べて誘引効果が向上することが判明した(図3)
 
紫外線LEDと乳酸発酵液Fの組合せ
図3 紫外線LEDと乳酸発酵液Fの組合せ
異なるアルファベットは,有意差があることを示す.
L:近紫外線LED+水入り補虫用水盤
L+F:近紫外線LED+畜産用乳酸発酵液入り補虫用水盤
F:畜産用乳酸発酵液入り補虫用水盤

 
④捕虫器の仕様決定と商品化
 近紫外線LEDと乳酸発酵液を組み合わせたLED誘殺器を試作して、生産現場での耐久性試験や生産者へのアンケートを実施し、最終仕様を決定し(写真2)商品化した。
 
近紫外線LEDと乳酸発酵液を組み合わせたナガマドキノコバエ捕虫器
写真2 近紫外線LEDと乳酸発酵液を組み合わせたナガマドキノコバエ捕虫器
 
 このLED誘殺器は、「LEDキャッチャー」の名称で共同研究機関である、みのる産業株式会社より販売されている。
参考資料
北島ら(2011)菌床シイタケ害虫ナガマドキノコバエの環境保全型防除技術の開発.森林防疫60(1):13-27
新田剛(2004)菌床シイタケ栽培における害虫問題.林業みやざきNo.483.
大谷義彦(2006)LED光源の特長.LED照明ハンドブック(LED照明推進協議会編)、pp.28-41.オーム社、東京.
坂田勉・瀧謙治・荊尾ひとみ(1999)ナガマドキノコバエによるシイタケ子実体食害とその防除の試み.森林応用研究8:225-226.
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