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気温の低下する夜間のLED光照射によるブドウ果房の着色促進  2013-03-06

●(独)農研機構 果樹研究所 ブドウ・カキ研究領域 東暁史  

 
背景と概要
 ブドウ果皮の着色(アントシアニン色素の蓄積)は、成熟期の気象条件の影響を強く受け、この時期の高温、日照不足は着色不良の原因となる。一方、ブドウ果粒の培養試験により、低温と光照射の同時処理には、ブドウの着色を相乗的に促進させる効果があることが明らかとなっている。
 そこで、ブドウ「ピオーネ」果房を用いて、気温の低下する夜間の光照射が着色に及ぼす影響を調査したところ、青色LED光の夜間照射によって着色関連遺伝子の発現量が増加し、着色が促進することが明らかとなった。
症状
 果実成熟期の高温、日照不足などにより、ブドウ果皮に蓄積するアントシアニン含量が減少し、着色不良となる。
 
「ピオーネ」の高温による着色不良
写真1「ピオーネ」の高温による着色不良
(クリックすると拡大します)
 
「安芸クイーン」の完全遮光による着色抑制
写真2「安芸クイーン」の完全遮光による着色抑制
(クリックすると拡大します)
原因
 ブドウの着色はベレーゾン期以降に急速に進行するが、この時期の果房周辺の気象条件(温度、光など)が着色に大きな影響を及ぼす。
 
1)温度条件
 着色期の高温は着色を著しく抑制する。また、樹体全体に対する温度の影響よりも、果房付近あるいは果実自体に対する温度の影響が大きいといわれる。ベレーゾン期以降の高温により、ブドウ果皮における着色関連遺伝子の発現量が減少し、アントシアニン合成が抑制されることで着色不良となる。
 
2)光条件
 着色期の天候不良や、新梢の過繁茂による果房部の著しい日照不足は、着色不良果の発生につながる。着色開始期に果房のみを完全に遮光すると、その他の条件が適当であっても着色が著しく抑制されることから、果房自体が受ける光量や光質が着色に直接影響していると考えられる。一方、光に対する着色反応性は品種間で異なる。
 
3)温度と光の相互作用
 ブドウの栽培環境において、温度と光が着色に及ぼす影響は相互に関連し合っており、低温と光照射の同時処理には着色を相乗的に促進させる効果がある。
対策
 ブドウ「ピオーネ」果房に対して、気温の低下する時間帯(夜間~朝)にLED光の近接照射を行うことにより、着色を促進させることができる。
 
1)照射期間:着色開始期(7月中下旬)~収穫日(8月下旬)
2)照射時間帯:18~9時
3)使用する光源:青色LEDテープライト(ピーク波長:470nm)
         赤色LEDテープライト(ピーク波長:630nm)
4)光源から最も近い果粒との距離:約5cm(青色光:26~41μmol m-2s-1、赤色光:34~42μmol m-2s-1
具体的データ
 青色光あるいは赤色光のLEDテープライトを光源とすることで、果房部への光の近接照射が可能である(写真3)
 
 
写真3 使用したLEDテープライト(青色)と果房近傍への設置例
(クリックすると拡大します)
 
 
 収穫時の果皮アントシアニン含量は、夜間無照射区と比較して夜間LED照射区で有意に高くなり、特に青色LED光による着色促進効果が高い(図1)
 

図1 夜間のLED光照射処理が「ピオーネ」果皮のアントシアニン含量に及ぼす影響。異なるアルファベットはTukeyの多重検定により5%レベルで有意差あり

 
 
 夜間LED照射区の着色関連遺伝子群の累積発現量は、夜間無照射区に比べておおむね高い(表1)
 

表1 夜間のLED光照射処理が「ピオーネ」果皮の着色関連遺伝子群の累積発現量に及ぼす影響
 
 このことから、夜間の光照射による着色促進の原因の一つは、着色関連遺伝子群の発現量の増加であると考えられる。
 着色関連遺伝子VlMYBA1-3の1日の発現量変動を調査すると、気温の低下する夜間から早朝にかけての発現量が高く、高温となる昼間に著しく低くなる(図2)
 

図2 着色関連遺伝子VlMYBA1-3の発現量の日内変動と気温との関係
(クリックすると拡大します)
 
 このことから、着色関連遺伝子の発現量は日内変動しており、発現量の増加する夜間~早朝の光照射が、着色促進に効果的と考えられる。
 今後は、着色促進に有効な光質や照射時間帯などの、より詳細な検討を行うとともに、着色促進効果の年次間差や、適用可能品種の調査を行う必要がある。
参考資料
1)東ら.(2013)平成24年度農研機構果樹研究所研究成果情報.
2)Azumaら(2012)Planta, 236:1067-1080.
3)Azumaら(2012)Acta Hort, 956:341-347.

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