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大麦の凍霜害 -暖冬でも出穂が安定する早生大麦系統の育成による回避-  2010-06-11

●(独)農研機構 作物研究所 青木恵美子  

 
背景と概要
 稲作との競合や入梅による雨害回避のため、小麦や大麦の早生化が進められてきた。しかし、近年では気候温暖化による冬期の気温上昇により、幼穂形成や茎立ち、出穂が早まる傾向にある。このため、栄養生長期間が短くなって穂数が不足したり、春先の寒波による幼穂凍死などの凍霜害が多発している。
 
 麦類の出穂には純粋早晩性(麦本来の生長の早さ)、低温要求性(一定の低温に遭遇した後でないと幼穂が形成されない性質)、日長反応性(短日では出穂が遅くなり、長日では促進される性質)の3つの形質が係わっている。これまで、早生品種の育成は低温要求性や日長反応性を小さくすることで進められてきたため、気温が高ければ茎立ちや出穂が促進されやすかった(図1)
 

図1 麦類の出穂の仕組みと温暖化の影響
 
 そこで、近年では、低温要求性や日長反応性を高くすることで、暖冬でも出穂期が早まらない品種の育成が試みられている。ここでは、日長反応性を高め、茎立ちは遅いが出穂は安定して早生である性質を持つ系統(以下安定早生系統)の育成について紹介する。
症状
 早生品種では、暖冬年では生育が早まり、幼穂形成中に凍霜害を受け、不稔を生じる。
 
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凍霜害を受けた穂(出穂期の様子)
原因
 従来の早生品種は、幼穂分化に低温期間をあまり必要とせず、日長による出穂制御を受けにくいため、短期間の低温で幼穂が形成された後、気温が高ければ茎立ちや出穂が促進されやすかった。
対策
 出穂期が暖冬でも早まらない品種を育成するためには、低温要求性(一定の低温に遭遇した後でないと幼穂が形成されない性質)、日長反応性(短日では出穂が遅くなり、長日では促進される性質)を高めることが重要である。
 
 低温要求性を高めると、幼穂形成に長い低温期間が必要となり、茎立に至るまでの期間が長くなる。実際、低温要求性が高いが(秋播性程度Ⅳ~Ⅴ)早生である品種が四国や関東北部で普及している。
 
 日長反応性は出穂に対して最も寄与が大きい形質であるとされている。低温要求性が幼穂形成のスイッチとして働くのに対し、日長反応性は幼穂形成のスイッチだけでなく、その後の幼穂発育の早晩にも影響を及ぼすとされる。日長反応性に関わる遺伝子や出穂制御のメカニズムについては解明されていない点も多いが、暖冬であっても日長には年次変動がないことから、日長反応性を利用することで、春先の一定の時期まで幼穂形成、幼穂発育、茎立を抑制する一方、茎立後から出穂までの生育を促進し、出穂期の安定化を図ることができると考えられる。
 
 そこで、農研機構作物研究所では、早生品種と晩生品種の交配組合せから、一定の日長条件下(12時間)では出穂が遅いが、圃場栽培では早生である系統を作出した。この系統は低温要求性がないが(秋播性程度Ⅰ)、茎立が遅く、出穂期が安定して早い形質を持っている。
具体的データ
 早生品種「ミサトゴールデン」と晩生品種「ゴールデンメロン」の交配組合せから、一定の日長条件下(12時間)では出穂が遅いが、圃場栽培では早生である系統(M/G-3,M/G-133)を作出した。
 
 これらの系統は低温要求性がないが、暖冬でも早生親であるミサトゴールデンに比べて茎立ちが遅い特性を持ち、凍霜害の被害も少なかった(図2、図3)。また、平年並みの気温の年と暖冬年を含む3年間の出穂期の年次変動を調べたところ、早生親であるミサトゴールデンや従来の早生品種であるカシマムギは、暖冬で出穂期が著しく早くなったが、安定早生系統では出穂の早進程度が小さく、年次変動も小さかった(表1)
 
 今後はこれらの系統を育種素材として利用し、安定的に早生である実用品種育成を進める予定である。
 

図2 安定早生系統の主茎長の推移(2007年)
 

図3 安定早生系統の凍霜害被害率(2007年)
 
表1 圃場における出穂期
参考資料
温暖化に対応した麦類の出穂安定性の改良 農林水産技術研究ジャーナル31(5):20-23.2008.
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