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地球温暖化が北海道における秋まき小麦生産に及ぼす影響予測  2014-01-22

●北海道立総合研究機構 谷藤 健  

 
背景と概要
 日本の年平均気温は過去100年で1.1℃上昇し、特に1990年代以降は高温となる年が頻発している。高温による農業被害は冷涼な北海道においても将来看過できない問題であり、予測される状況を早急に解析し、農業者や関連産業に示していく必要がある。
 そこで、北海道の基幹作物の1つである秋まき小麦について、2030年代を対象に生育や収量等へ及ぼす地球温暖化の影響を検討した。2030年代気象予測、および、過去の気象・収量データまたは作物モデルによる解析からは、将来的に減収や湿害多発等の可能性が予測され、想定される課題および技術的対応方向を示した。
2030年代北海道の気象状況
 各種の予測モデルに基づき、2030年代北海道の気象状況を解析したところ(図1)、現在(気象庁 メッシュ気候値2000)と比べ、春季と秋季の上昇幅が2~3℃と特に大きく、夏季においても概ね1.5℃の上昇が見込まれた。降水量、日射量については、6、7月の降水量増加(現在比1.6~1.8倍)と日射量低下(現在比0.8倍)」が特徴的な傾向である。
 
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図1 2030年代気象要素予測値と現在との比較
道内935メッシュ平均値.現在:1971~2000年を統計期間とする平年値
過去の気象・収量データからの予測
 過去21年間の道内各地の秋まき小麦(当時の主力品種「ホクシン」)の収量を各地点の気象要素(5~7月の月別気温、降水量、日照時間)との関係から解析すると、個々の要素との単相関では判然としないものの、「6月日照時間」「7月最低気温」の2要素を説明変数とした重回帰式からはよく説明され、すなわち、出穂・開花期前後の日照は長く、以降登熟中の気温は高く推移しないことが高収要因であった。
 2030年代は、各地の6月日射量は現在の0.80~0.87倍、7月最低気温は+1.16~1.64℃と、いずれも収量の上ではマイナスの方向への変化が予測されている。これら2気象要素の関係図に2030年代気象データを当てはめると、各地のプロットはおおむね低収域に分布し(図2)、現在の気象データを当てはめた推定収量と比較すると、減収割合は平均10%強と算出された。
 
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図2 6月日照時間および7月最低気温から見た推定収量レベルの分布
作物生育解析モデルからの予測
 さらに、ヨーロッパで開発された作物生育解析モデル「WOFOST」による予測も行った。
 本システムは北海道の秋まき小麦にも適用できる形に改良されており(志賀(2003))、生育ステージ、光合成、呼吸、蒸散、各器官への分配などのプロセスがモデル化され、気象データや土壌タイプを入力するとポテンシャル収量(=最大収量)などが推定できる。ポテンシャル収量には、気温と日射量のみから算出される「PY1」と、土壌タイプや降水量に基づき水分条件による制限(干ばつの影響)を考慮に入れた「PY2」の二通りがある。これにより各地の収量変化を予測し、その一例を図3に示す。岩見沢(低地土)、網走(火山性土)において干ばつの影響を考慮しない「PY1」で見ると、現在~2030年代にかけていずれも減収と試算された。
 一方、土壌水分による制限を考慮した「PY2」では、道央転換畑(岩見沢)のような、土壌物理性の問題による水分不足が低収要因となっている地域においては、現在はPY1との差が大きいものの、2030年代は降水量の増加がこれを解消する方向にはたらき、PY1と同レベルまで増収すると試算された。しかし、道東火山性土(網走)のような、現在において水分ストレスが少なくPY1との差がほとんどない場所においては、PY2も減収した。ただ、この解析において、PY2には過度の降水による影響は考慮されておらず、2030年代予測気象条件では、湿雨害の発生増がポテンシャル収量到達への障害となることが予想された。また、各地において融雪が早まり、起生期も10日前後早まることから、WOFOSTの試算では、春季以降の各生育ステージは大幅に前進した(ただし生育期間は同等)。
 播種期についても、道総研が開発した播種適期算定法(現行主力品種「きたほなみ」が対象)に現在と2030年代の気象をあてはめると、秋の気温上昇は播種適期を1週間、地域によっては10日以上遅らせると予測され(図4)、温暖化は道内の小麦栽培暦全体を変化させると考えられた。
 
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図3 作物モデル「WOFOST」による秋まき小麦の収量シミュレーション
PY1: 土壌水分ストレス(干ばつ)を考慮しない最大収量
PY2: 土壌水分ストレスを考慮した最大収量

 
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図4 2030年代に予測された秋まき小麦播種適期(現行の主力品種「きたほなみ」の場合)
「めん用秋まき小麦「きたほなみ」の高品質安定栽培法」(平成20年北海道普及推進事項)に基づき算定。
2030年代予測気象に向けた対策
 以上、現在と同じ特性の品種という前提で2030年代北海道の秋まき小麦栽培を予想すると、主に秋の気温上昇や春の融雪前進により、秋作業に余裕が生じ、また越冬前の生育不足や雪腐病のリスクを減らせるという利点が挙げられる。また、開花期後の降水量増加により、一部の干ばつ傾向の地域では水分不足が緩和し、収量ポテンシャルは増加する。
 一方、秋の気温が上昇し降雪も減少した場合、冬の寒気による凍害のリスク増加が懸念される。また、開花期後の予測気象からは、湿害や雨害による影響(赤かび病、倒伏、穂発芽など)に加え、近年も頻発する高温による登熟不良のリスク増加も予想される。
 これらを踏まえ、道内の小麦栽培の2030年代以降に向けた対応として、品種開発および栽培技術の面から以下の点を挙げた(表1)
 
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参考文献
志賀弘行2003.作物モデルを活用した秋まき小麦の収量変動評価・予測法.土肥誌 74, 836-838.
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