茶園の「点滴かん水同時施肥法」による施肥削減とかん水効果 | 2014-02-27 |
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●佐賀県茶業試験場 髙木智成 |
背景と概要(要約) | 近年、茶の消費低迷等に伴い荒茶価格が低下し続ける中、農家にとって茶生産費の削減は重要な課題である。茶栽培は他作物と比較して生産費に占める肥料コストの割合が高いことに加え、平成20年には肥料価格が高騰したため、茶業経営は一層厳しさを増している。 さらに、近年では、夏期の異常な高温や干ばつが頻発し、翌春の一番茶収量を左右する秋芽母枝の生育不良が散見されており、この時期の高温・干ばつは減収の一因であると考えられている。 しかしながら、茶園の多くが中山間地域に位置し、そのほとんどで水源の確保が困難であるため、少量のかん水で効果をあげる手法の開発が求められている。 また、茶栽培は他作物と比較して窒素施用量が多く、環境負荷(茶園からの窒素流亡や温室効果ガスの一つである亜酸化窒素ガスの発生)を与えていることが明らかとなっている。そのため、窒素施用量を削減したうえで、収量や品質の維持が可能な施肥技術が求められている。   これらの問題の打開策として、点滴チューブを用いた点滴施肥が有力な手段と考えられる。ここでは、点滴かん水施設を利用した液肥施用と夏期干ばつ時のかん水について試験を行った(表1)。   その結果、慣行施肥を行っている区では土壌乾燥時(pF=2.3~2.9)に2t/10aのかん水を行うことで、pF値の低下がみられた(図1)が、点滴施肥区では、pF値は慣行施肥区より高めに推移した。これは点滴施肥区のうね間土壌の水分保持能が低下していたことに起因すると考えられた(図1、3)。点滴施肥区および慣行施肥+かん水区は慣行区と比べて処理当年の秋芽収量に差はなかったが、翌年の一番茶収量は約10%増収した(表3)。また、慣行施肥栽培区と点滴施肥栽培区の一番茶荒茶品質について官能審査を行った結果、品質の低下も認められなかった(表4)。  
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高温・干ばつの症状 | 夏期の高温・干ばつにより、夏芽生育抑制や葉焼け(日焼け)等の症状がみられる(写真1:正常な夏芽、写真2:干ばつの影響を受けた夏芽)。夏期の高温と干ばつの程度が著しい場合には、落葉し枝条が枯死する(写真3、4:落葉、枝条の枯死)。  
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高温・干ばつの原因 | 夏期の高温・干ばつにより土壌水分が減少し、生育に必要な水分供給が不足することで、茶芽の生育不良をおこす。また蒸散抑制に伴い、樹体温度が上昇し、葉焼けを生じる。
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対策 | 試験調査は、樹冠下に点滴チューブ(点滴口の間隔:20㎝)を各畝に2本設置し、尿素液肥による施肥および土壌乾燥時(pF=2.3 ~2.9となった時)に2t/10aのかん水を行った(調査年のかん水回数は6回/年)。実際の処理は、タンクに汲んだ水をトラックで運搬し、動力ポンプを用いて行った。試験は慣行施肥区(以下慣行区)、慣行施肥にかん水処理を行った区(以下慣行区かん水)および点滴チューブによる液肥施肥を行った区(点滴区)の3処理を設定した(表1)。   表1 試験区の設計
注1)点滴区の施肥は樹冠下の点滴チューブにより窒素肥料として尿素100~200倍希釈液肥を年間6回施肥した(2t/10a/回)。リン酸、加里、石灰および苦土については液肥を使用せずに、固形肥料をうね間土壌へ施用。 2)慣行区かん水では、設置した土壌水分(pF)センサーの値が2.3~2.9を示した時期に2t/10a/回のかん水を行った。 3)土壌水分(pF)センサーは藤原製作所製セラミックス土壌水分計(測定範囲pF 1.5~2.9)を使用した。 4)pFセンサーは樹幹から雨落部側に30㎝の位置の地中深さ30㎝に各試験区に1本ずつ埋設した。 5)かん水処理は2011年および2012年の8月~9月に行った。
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具体的データ | ①かん水処理および施肥法の違いが土壌水分に及ぼす影響 慣行区かん水では2t/10aのかん水を行うことによってpF値が低く推移する傾向があり、土壌の乾燥が緩和された。一方で点滴区は慣行区と比較してpF値が高く推移する傾向であった(図1)。  
図1 2011年の土壌pF値の推移 注)オレンジ色の矢印はかん水処理を行った日を示す。   ②各処理区のうね間土壌の物理性 H15年より点滴施肥を行っている試験区と慣行区の土壌物理性の調査を行ったところ、慣行区の土壌は点滴区より孔隙率(液相+気相)および水分保持能が高い傾向であった(図2、図3)。これは、肥料による影響に加えて施肥法の変更による中耕の有無が起因していると考えられた。また、点滴区の水分保持能が低下したことで、土壌が乾燥しやすい状態となりpF値が高く推移したことが示唆された(図1、図3)。  
図2 試験区土壌の三相分布 注)土壌は2012年にうね間下20㎝~30㎝を採土した。
 
図3 試験区土壌の水分保持特性 注)土壌は2012年にうね間下20㎝~30㎝を採土した。
  ③かん水処理および点滴施肥が秋整枝量に及ぼす影響 処理当年の秋整枝量を比較したところ、いずれの試験区においてもほぼ同等であった(表2)。   表2 2011年の秋整枝量の比較
注)kg/10a換算した数値を示す。
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④かん水処理および点滴施肥が翌年一番茶収量に及ぼす影響 処理翌年の一番茶収量は、点滴区が最も多く慣行区と比較して10%程度の増収であった。また、慣行区かん水では、約7%の増収であった(表3)。   表3 2012年および2013年の一番茶収量
注1)kg/10a換算した数値を示す。 2)平均は2012年、2013年一番茶の平均収量を示す。 3)指数は慣行区無処理を100としたときの指数を示す。   ⑤点滴施肥が翌年一番茶の品質に及ぼす影響 製茶品質について、点滴区は慣行区と比較して、いずれの荒茶審査項目においても同等かやや優れる結果であった(表4)。   表4 一番茶の官能審査結果(品種:やぶきた 樹齢28年生)
注1)平均は2012年および2013年の官能審査結果の平均値を示す。 2)官能審査は標準審査法(各項目20点、計100点満点)により評価。 3)製茶は1k小型微量製茶機を用いた(反復なし)。   (各図表はクリックで拡大します) |
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参考資料 | 德重ら(2013)夏季における点滴潅水による土壌水分と生葉収量への影響.平成24年度 業務年報 佐賀県茶業試験場 p16
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