ログイン会員登録 RSS購読
こんにちは、ゲストさん
トップ対策情報
対策情報
水稲 麦・大豆 野菜 果樹 花き 畜産 その他
一覧に戻る
乳白粒,基部未熟粒の発生予測モデルの開発  2011-09-05

●九州沖縄農業研究センター生産環境研究領域 農業気象研究グループ 脇山恭行  

 
背景と概要
 最近の気温上昇傾向により、水稲の登熟期が高温で推移し、乳白粒、基部未熟粒などの白未熟粒が各地で多発している。白未熟粒は、搗精時に砕けやすくなる、買い取り価格の低下により農家収入が減少するなど、大きな問題となっている(森田、2008)
 
 一般に、白未熟粒の発生原因は高温とされている。しかし、高温だけでは発生状況が説明できない場合も多い。最近の研究で、白未熟粒の発生には、登熟期の高温の他、日照不足、水稲の生育状況などが関わっていることが明らかになってきた。発生には様々な要因が関わっているため、高温だけでは発生状況が説明できない場合があると考えられる。
 白未熟粒の発生状況を説明するためには、発生原因と考えられる登熟期の高温、日照不足などの気象条件、籾数過多、窒素不足などの水稲の生育状況を説明変数とした、発生予測モデルの開発を行う必要があると考えられた。モデルを開発すること、すなわち、白未熟粒はどのような条件で発生するのかを整理することにより、発生しやすい条件を特定でき、対策に資することができる。また、気象予測情報を用いて白未熟粒の発生予測を行うことにより、予測結果を対策の実施や、共済申請の判断材料として利用することができる。
白未熟粒発生予測モデル
 これまでの報告から、白未熟粒は発生原因により2つのタイプに分けられることがわかってきた。
 1つは高温の影響が最も大きいとされる基部未熟粒、背白粒タイプ、もう1つは高温、日照不足、籾数過多、窒素不足などが原因とされる乳白粒、心白粒タイプである。
 そこで、モデル開発は2つのタイプに分けて行うことにした。予測モデルを白未熟粒のタイプごとに開発することで、発生状況を精度良く説明することができると考えられたためである。
 なお、モデル開発に必要な水稲の生育データは、ヒノヒカリを対象に、九州内の農家水田において収集した。
 
1)基部未熟粒の発生予測モデル
 図1には、出穂期から20日間の平均気温と基部未熟粒発生率との関係を示した。
 
図1
図1 登熟期の平均気温と基部未熟粒発生率の関係
 
 気温が高いほど基部未熟粒の発生率は高く、決定係数は0.72と高い。このように基部未熟粒は、気温との相関が高いことが確かめられ、図中の両者の関係式を発生予測モデルとすることにした。以下の①式が基部未熟粒の発生予測モデルである。


IWBK = 3.45×10-7 exp(0.607×T)  ①式
 
 ここで、IWBKは基部未熟粒発生率(%)、Tは出穂期から20日間の平均気温である。
 
2)乳白粒の発生予測モデル
 次に、乳白粒の発生予測モデルについて述べる。乳白粒の発生原因である日照不足や窒素不足は、登熟期の同化産物量に関わっている。また、籾数を制限することにより乳白粒の発生が抑制できることから、登熟期の籾あたり同化産物量が発生と関わっていると推察された。
 そこで、以下の②式を用いて、発生を予測できるものと考えた。
 
DMG = 0.71×SR×α×RUE / Gr       ②式
 
 ここで、DMGは登熟期の籾あたりの同化産物量(g/粒)、SRは登熟期の日射量(MJ/m2)、αは出穂期のLAIから推定した群落の日射吸収率(堀江・桜谷、1985)、RUEは登熟期の日射転換効率(g/MJ)、Grはm2あたり籾数、0.71はヒノヒカリを対象に予測する場合の係数である。図2には、登熟期の気温とRUEの関係を示した。登熟期の気温が高いほどRUEは低く、また出穂期の葉身のSPAD値が高いほどRUEは高く保たれる。登熟期の葉色を考慮した気温とRUEの関係式を表1に示した。関係式は、乳白粒発生に関わる高温による同化産物の消耗や同化産物の生産に関わる葉色の影響を表すことができる。
 
図2
図2 登熟期の平均気温とRUEの関係
 
表1 出穂期の葉色を考慮した登熟期の気温とRUEの関係式
表1
RUESv30<は出穂期の上位4葉の平均SPAD値が30より大きいときのRUE、RUESv30≧はSPAD値が30以下のRUE、Tは登熟期の平均気温.
 
 図3にはDMGと乳白粒発生率の関係を示した。乳白粒発生率はDMGが少ないほど高く、DMGを用いることによって乳白粒の発生状況を説明できる。図中のDMGと乳白粒発生率の関係式、以下の⑤式が発生予測モデルである。
 
図3
図3 籾あたり同化産物量(DMG)と乳白粒発生率の関係
 
IMWK = 52.3exp(-599.9×DMG)    ⑤式
 
 ここで、IMWKは乳白粒発生率(%)である。②式の出穂期のαの推定に必要なLAIは、草丈、茎数、移植密度から推定が可能であり、また籾数は出穂期の草丈、茎数、移植密度、葉色(SPAD値)を用いて推定できる。計算に必要な気象データは、出穂期から16日~25日目までのアメダスデータなどを用いる。日射量は、アメダスの日照時間から推定する(近藤ら、1991)
 
 今回は、ヒノヒカリを対象に発生予測モデルを開発した。高温登熟耐性は品種間差があるが、白未熟粒の発生原因は同じであると考えられるので、白未熟粒をタイプに分け籾あたりの同化産物量を評価する本予測モデルは、様々な品種に対応可能であると考えられる。
参考資料
堀江 武・桜谷哲夫、1985:イネの生産の気象的評価・予測法に関する研究 (1)個体群の吸収日射量と乾物生産の関係.農業気象、40、331-342.
近藤純正・中村 亘・山崎 剛、1991:日射量および下向き大気放射量の推定.天気、38、41-48.
森田 敏、2008:イネの高温登熟障害の克服に向けて.日作紀、77、1-12.
脇山恭行・大原源二・丸山篤志、2010:水稲白未熟粒発生予測モデル構築のための登熟期の気象条件および生育状態と白未熟粒発生状況の解析.農業気象、66、255-267.

対策情報を検索する
この分野の対策情報を検索できます
中分類で絞り込み
キーワード検索
期間で絞り込み
から
注目情報
  コラム:寒暖変動しながら暖冬(あぜみち気象散歩102)
注目情報PHOTO  秋に続き、この冬も寒暖変動が激しかった。11月頃から約2週間の周期で気温が変動した(図1)。 暖冬だが約2週間ごとに寒気入り大きく変動 図1 地域平均気温平年偏差5日移動平均時系列(2023年12月~2024年2月)(気象庁)...
もっと見る