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温暖化する海 (あぜみち気象散歩11)  2010-10-26

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
熱かった8月の日本の海 
 今年8月、山口県の日本海側長門市沿岸では2千匹のカツオが水揚げされた。水温の高い海域に生息するカツオは、太平洋より海水温の低い日本海に現れることは珍しく、2007年から2009年の8月には1匹の水揚げもなかったという。
 8月の日本周辺海域の月平均海面水温は平年より1.2℃も高くなり、1985年以降8月としては最高となった(図1赤線)。強い太平洋高気圧が日本付近を広く覆い記録的猛暑となったため、広範囲で海面水温が高くなった。
 
8月の月平均海面水温の平年差の時系列
図1 8月の月平均海面水温の平年差の時系列(1985~2010年) 気象庁
 
世界の海も温暖化 
 昨年(2009年)は地球全体の海面水温が平年より0.23℃高く、統計をとり始めた1891年以降では2番目の高水温となった。年平均の海面水温の全球平均は年々上昇し、長期的にみると100年当たり0.50℃の割合で上昇している(図2)。とくに、1990年代後半からは、長期変動の割合を上回って、高水温になる年が頻繁に現れている。
 地球温暖化によって大気の温度が上昇し、その熱が海水を温めている。地球温暖化の熱エネルギーは、過去50年間ではその8割以上が海洋に吸収されている。海も温暖化しているのだ。海洋は大気に比べて変化しにくいが、いったん変化するとその状態が長く続く。海水温の分布や海流が変われば、長期間にわたって気候に影響を及ぼすことが懸念されている。
 
年平均海面水温(全球平均)の平年差の推移
図2 年平均海面水温(全球平均)の平年差の推移
  (2010年2月10日発表) 気象庁
 各年の値を青い棒グラフ、5年移動平均値を赤い実線、長期変化傾向を緑の実線で示します。平年値は1971~2000年の30年平均値です。

 
酸性化する海
 人間活動による二酸化炭素の放出量増加の影響は大気や海の温暖化にとどまらず、海水を酸化していることも問題になっている。現在の海水は、海面近くでpH8.1の弱アルカリ性だが、大気中の二酸化炭素が海に吸収されるとアルカリ性が弱まり、中性(pH7)に近づき、酸性化する。 
 また、海水は二酸化炭素の約3分の1を吸収して、二酸化炭素の貯蔵庫の役割をしている。海水中の濃度は海域によって異なるが、気象庁が観測を行っている北西太平洋では、図3のように1984年以降冬季の表面海水中の二酸化炭素は年に1.6±0.2ppm増加し、大気中の増加率とほぼ一致している。人間が排出した二酸化炭素も海洋が吸収し、海のおかげで大気中の濃度が低く抑えられている。温暖化がさらに進行すると、二酸化炭素の吸収能力が低下すると指摘されている。
 
冬季の東経137度線の北緯7~33度で平均した二酸化炭素濃度の経年変化
図3 冬季の東経137度線の北緯7~33度で平均した二酸化炭素濃度
   の経年変化 (1984~2008年) 気象庁
 細い直線は、表面海水中および大気中の二酸化炭素濃度の回帰直線。括弧内の数値は、回帰直線の傾きと95%信頼限界を示したものです。

 
海の生態系への影響
 海洋の温暖化や酸性化は直接的、間接的に私たちの社会に大きな影響を与える可能性がある。酸性化が進むと、サンゴの骨格やエビや貝、プランクトンなどの殻の主成分である炭酸カルシウムの生成が妨げられ、殻がもろくなったり、サイズが小さくなったりして、海の食物連鎖全体に大きな影響を与える恐れがある。
 海水温の上昇によってサンゴの色が白っぽくなり、サンゴ死滅につながる“白化現象”も広がっている。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次報告書でも、世界の海面水温が約1~3℃上昇するとサンゴの白化や死滅の危機が高まると指摘されている。日本近海では、北海道南部や本州北部にやってくるシロザケの生育域が北上傾向で、生存率は減少傾向にあり、暖水性のゴマサバも北上傾向で、2000年以降に三陸沖北部海域まで回遊が見られるようになったという。
 化石燃料の消費による二酸化炭素の放出が現在のペースで増え続けると、海水の酸性化や温暖化が進み、今世紀中に海の生態系全体に悪影響を与える可能性があると指摘されている。農作物の温暖化対策は、品種改良などである程度は対応できるが、日本近海で獲れる海産物の種類は変わっていくと予想される。私たちの食卓に上る食材も変えなくてはならない時がやってくるだろう。

 
 
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