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初夏の猛暑と梅雨の嵐(あぜみち気象散歩74)  2019-06-25

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
5月の記録的猛暑
 5月は下旬を中心に気温が高かった(図1)。26日には全国566の地点で真夏日になり、53の地点で猛暑日となった。なかでも、北海道佐呂間では39.5℃まで上がり、5月として全国の観測史上最高を記録した。東京都心は24日から30℃を超え、5月としては観測史上初めて4日連続で真夏日になった。2014年以降の5月は北・東・西日本で高温が続いているが、今年は異例の暑さだった。
 

5月中旬から気温上昇し、5月下旬は記録的高温
図1 地域平均気温平年偏差時系列(2019年4~6月)(気象庁)
 
 総務省消防庁によると熱中症で救急搬送された全国の患者数は、20~26日は2053人、5月27~6月2日は1251人に上り、各々昨年の約3.6倍と約2倍に増加した。 
 
北日本の上空の流れは“オメガ型”
 この季節外れの猛暑の原因を上空の風の流れで探ってみると、カムチャツカの南に居座った高気圧の影響で偏西風の流れが南北に大きく蛇行をしたことにあるようだ。
 図2の5月下旬の上空の風の流れを見ると、カムチャツカ半島の南に高気圧がある。この高気圧がブロックして偏西風は東へ順調に流れることができず、大陸東岸とアリューシャンの南で南下している。大きく蛇行した流れはちょうどギリシア文字のオメガ(Ω)に似ているので「Ω型ブロッキング高気圧」と呼ばれている。1988年の夏には北米大陸に現れ、穀倉地帯が熱波と干ばつに見舞われた。異常気象をもたらす典型的なタイプだ。今年5月下旬のオメガ型は高気圧の中心が東海上にあったので、猛烈な高温と干ばつは免れたが、北日本は高気圧に近かったので東・西日本より気温が上昇し記録的高温となった。
 

記録的猛暑:北日本の東でオメガ型(Ω型)気圧配置
図2 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成)
2019年5月21日~31日(平年値は1981年~2010年の平均値)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 オメガ型に加えて、上空1500m付近では5月23~24日に中国大陸で暖められた高温域が東進し、26日に北日本へ到達した(図3)。23日にはモンゴルのバルーンウルトで36.1℃、中国の内モンゴル自治区ジャルド旗では38.4℃を観測した。
 

左:上空1500m付近の高温域が大陸から東進(2019年5月24日)
右:26日 高温域は北日本へ(2019年5月26日)
 
図3 850hPaの気温(等値線)と平年偏差(気象庁の図を基に作成)
(平年値は1981年~2010年の平均値)

:平年より気温が低い
:平年より気温が高い
 
 地上天気図では南海上に高気圧、日本の北に低気圧があり「南高北低」の気圧配置が続き、日本列島に暖かな南風が入った。26日は大雪山を越える西よりの風が吹き下りて、フェーン現象によって気温がさらに上がり、北海道湧別で38.5℃、北見で38.1℃など北海道東部を中心に記録的高温になった(図4)
 

南西風入り、北海道フェーン現象
図4 地上付近の天気図(気象庁の図を基に作成)
2019年5月26日12時

 
 温暖化で地球大気の気温のベースが上昇していることもあり、高温の条件が重なれば5月の北海道でこれほどの高温になるのも不思議ではなくなったように思える。
 
梅雨には珍しい“梅雨の嵐”
 今年の入梅は東海から東北南部で平年より早めだったが、その他の地方は遅く、九州北部から近畿地方では大幅に遅れている。
 梅雨といえば梅雨前線が太平洋岸に停滞し、シトシト雨が降る、という天気パターンが定番だが、近年の梅雨は変わってきたようだ。6月15日から16日にかけて通った低気圧は、九州の南を996hPaと発達しながら四国沖を通り、紀伊半島から北陸へ向かい、日本海へ抜けて984hPaとさらに発達した(図5)
 

梅雨の嵐
図5 地上付近の天気図(2019年5月16日3時)気象庁
 
 その後は東北沿岸を北上して三陸沖へぬけて、北海道沖を北上した。発達した低気圧は各地に大雨と強風をもたらし、全国的に大荒れの天気となった。低気圧は寒気と暖気がぶつかり合うところで発生し、温度差が大きいほど発達する。嵐をもたらす低気圧は春や晩秋から冬によくみられるが、梅雨に通るのは珍しい。例年の梅雨の低気圧は停滞する梅雨前線の上を東進しながら発達することもあるが、990hPa以下になることはあまりない。
 6月15日の上空の天気図(図6)を見ると、バイカル湖付近で暖気が北上して偏西風が大きく蛇行し、大陸東岸から日本付近に寒気が南下している。その東の北海道の東海上では暖気が北上し、日本付近では寒気と暖気がぶつかり合い、地上付近の低気圧が発達して梅雨の嵐をもたらした。
 

寒気と暖気が日本付近で衝突
図6 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成)
2019年6月15日(平年値は1981年~2010年の平均値)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 5月から、北極の寒気団は放出期に入っている(図7)。寒気は5~6つに分裂して中緯度に南下し、偏西風は大きく蛇行する状態が続いている。5月はバイカル湖付近に寒気が南下していたが、6月はバイカル湖付近で暖気が北上しているため、日本付近に寒気が南下しやすくなっている(図6)。暖気の北上する位置と寒気の南下する位置が東西に少しずれることによって、猛暑になったり、嵐になったり、梅雨寒になったりと気温も天気も変動している。
 

北極寒気は5つに分裂して南下、放出期
図7 500hPa北半球平均天気図 高度と平年偏差(気象庁の図を基に作成)
2019年5月(平年値は1981年~2010年の平均値)

:平年より高度が低く、気温が低い
:平年より高度が高く、気温が高い
 
 デンマーク気象研究所によると、グリーンランドの海抜3000mにあるサミット観測所では、4月30日に気温が氷点下1.2℃に上昇し、同観測所の観測史上最高を記録した。その後も暖かな晴天が続いて氷の融解が例年より早く進み、今年6月末には氷床の減少量の記録が更新される可能性が高いという。北極圏は寒気の放出期が続き、グリーンランドは強い高気圧に覆われている(図7)。地球温暖化で北極付近に寒気が溜りにくく、放出期が長引いていることが影響しているのかもしれない。
 
屋久島で初夏の豪雨
 今年に入ってから、北・東・西日本は降水量が少なく、少雨が続いている。5月は高気圧に覆われ、晴天が多く、北・東・西日本の日本海側と北日本の太平洋側では月間日照時間が1946年の統計開始以来5月として最も多くなった。また、西日本の日本海側では月降水量が平年の35%と5月として最も少なかった(図8)。西日本では6月に入っても少雨が続き、福岡県、鳥取県、四国などのダムの貯水率が下がり、農業用水や農作物への影響が心配されている。
 

高温、少雨、多照
図8 気温、降水量、日照時間の平年差 2019年5月(気象庁)
 
 その一方で、5月18日には九州南部付近に湿った空気が入り、屋久島で大雨が降った。鹿児島県屋久島町屋久島では18日の日降水量が439.5mmに達し、1938年の観測開始以来5月として第1位を記録した。世界遺産の島で名所として有名な縄文杉に向かう道路では、土砂崩れや道路冠水・陥没が起きて登山者が孤立した。屋久島町は午後6時に町全域に避難勧告を出し、避難をよびかけた。幸い、翌19日には登山者314人が無事に全員救助された。屋久島は「ひと月35日雨が降る」といわれるほど雨が多い。とはいえ豪雨があるのは例年6月から9月の梅雨や秋雨、台風のシーズンだ。5月は比較的晴天も多く、1日に400㎜を超える豪雨になるのは珍しい。
 

湿った南東風入り屋久島で豪雨
図9 地上付近の天気図(2019年5月18日18時)気象庁
 
 図9の18日の地上天気図を見ると、九州の西の海上で低気圧が停滞した。日本の東海上では高気圧が中心気圧1030hPaと発達し、九州付近では等圧線が混んで、高気圧から吹き出す南東風が強まった。湿った風が屋久島に運ばれ大雨になった。通常は災害が発生する集中豪雨型の天気図というと、前線が北側に停滞し、台風や熱帯低気圧が南海上にあって、前線に向かって大量の水蒸気が運ばれる図10のような天気図型が典型的な豪雨パターンだが、今回の豪雨ではそれらの要素がなかった。上空の偏西風が大きく蛇行したことによって地上付近で高気圧が発達し、低気圧が停滞して南東風を持続させたことが主な原因だ。
 

図10 集中豪雨型の地上気圧配置  
(気象庁の図を基に作成)

 
 それにしても、温暖化がなければここまでの豪雨にはならなかっただろう。温暖化すると大気中の水蒸気が増えるので、上昇気流が強まるところに水蒸気が集まる。一方で、高気圧の下降気流域では空気が乾燥して少雨となる。温暖化によって少雨と大雨は隣り合わせで、そのコントラストがより強くなっている。
 
 令和が始まってもうすぐ2か月になる。振り返ってみると、昭和は地球温暖化が予想された時代だった。平成は温暖化が現実的になり、激しさを増す異常気象に温暖化を実感する時代だった。そして、令和はどうなるのだろうか。地球温暖化は間違いなく本格化する時代になるだろう。

 
 
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