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ウシガエル――米利堅蛙鳴(めりけんあめい)(むしたちの日曜日87)  2021-01-18

●プチ生物研究家、ときどき児童文学者 谷本雄治  

 
 新しい年になった。ネズミからバトンを受け取ったのは牛だ。
 せっかくだから、牛にちなむものを何か取り上げようと思ったとき、最初に頭に浮かんだのがウシハコベだった。
 少し探せばどこでも見つかる身近な草だ。コハコベとかイヌハコベ、ミヤマハコベなんていう仲間もあるが、よく目立つのは大柄のウシハコベだろう。
 ハコベ類は、日本だけで20種近く知られている。世界には約120種もあるというから、けっこうなグループだ。春の七草のひとつ、「はこべら」としての知名度も高い。
 
 「ウシノヒタイ」の俗称を持つミゾソバも、牛と結びつく。白とピンクからなる、かわいらしい花がぼくは好きだ。ソバに似ていて湿った場所に生える草ということで、ミゾソバという名前をもらった。
 ウシノヒタイは葉の形から連想したものだというが、いまひとつ、わからない。額というよりも、角のある牛そのもののように思えてならない。
 そのほかにもウシブドウ(標準和名・マツブサ)、 ウシゴロシ(カマツカ)、 ウシカバ(クロソヨゴ)など、あだ名に牛が付く草はいくつかある。由来はそれぞれだろうが、牛がそれだけ身近な存在だったという証にはなろう。
 
 では、虫はどうか。
 それなら、海にいるウミウシがいちばんわかりやすい。なにしろ、そのまんまの名前だ。
 牛にたとえるわりには小柄だが、体の大きさはともかく、角のようなものがくっついているから、素直といえば素直な発想だ。
 それなら、カミキリムシの異名も同じだろう。漢字で「天牛」と書くことは、虫好きでなくてもよく知っている。
 
 
 
 「あのさあ、天の虫といえば蚕だろ。だったら、天の牛というのはどんな虫だと思う?」
 「てんのうし? 天童市や天王寺なら知ってるけど……」
 友人に尋ねたら、まさかの答えしか返ってこなかった。天牛の認識度がそれほど低いとは思いもしなかった。
 カミキリムシに天の牛という文字を当てたのは、あの長い触角がよほど目立ったからにちがいない。そう説明すればたいていは納得してくれるのだが、それと併せて、「カミキリムシを漢字で書くなら、髪切虫じゃないの?」という返事もまた多い。それがまあ、フツーの人の見方なのだろう。
 そこへいくと、ウシカメムシはわかりやすい。ミゾソバをウシノヒタイと呼ぶよりも、よほど牛に結びつく形をしている。第一、カッコいい。
 ウシカメムシは、雑食性でもある。
 カメムシは植物の汁を吸う草食系と、ほかの虫を襲って体液を吸う肉食系に大別される。ウシカメムシは主に草食で、時には肉食にもなるという両刀使いだ。そんなこともあって、見つけたときには思わず得をした気分になる。
 
 だが、ぼくが好きな牛にちなむカメムシは、実をいうとウシカメムシではない。ウシヅラヒゲナガゾウムシというのがいるからだ。
 しかもそのおまけというか相方に、牛ではなく馬にたとえられたウマヅラヒゲナガゾウムシまでいるのだから、ヘンテコ好きのぼくにとっては外せない名虫のひとつとなっている。
 実をいえば、牛も馬もその虫の本名にはつながらない。エゴヒゲナガゾウムシというのが両者に共通した標準和名だ。ヒゲナガは外見からの命名であり、「エゴ」というのはエゴイストのエゴではなく、エゴノキのエゴである。
 ウシカメムシはからだ全体からの連想名だが、エゴヒゲナガゾウムシの場合はまさにその顔つきから、名前がついた。 特にスゴいのが、ウシヅラの名をもらったオスの牛顔だ。
 頭の上に張り出した突起はなるほど、牛の角を思わせる。ところがメスにその角はなく、ただないだけでなく、何に似ているかといえば馬なのだ。
 これはあまりにもデキすぎている。おそらくは牛顔を先に思いついた子どもたちが、だったらこっちは馬だろう、というようないきさつで、名づけたような気がする。
 
 
 
 だがまあ、そんなことはどうでもいい。オスとメスで外見がまったく異なり、しかも別々のニックネームを有するところが、ぼくにとっては何にも増して魅力的なのである。
 だから毎年、エゴノキが実をつけるころになると牛と馬を探しに出かける。
 といっても、すぐ近くの公園に行くだけなのだが、そこではエゴノキの実に穴をあけて卵を産もうとしてるメスと、その連れ合いが見つかる。
 それ以上に大量にいるのがやぶ蚊なのだが、そいつらに刺されまくっても、彼らとの出会いはやめられない。もう長いこと、マイ年中行事となっている。
 
 意外に思えるが、アザミウマも牛に関係がある虫ということだ。
 「ウマなのに牛? どういうこと?」
 即座にそんな質問がとんできそうだが、答えを言えば、牛であり馬でもあるという二面性を持っているのがアザミウマだ。
 農家の人たちといてアザミウマの名を持ち出すと、たいていは渋い顔をされる。なにしろ、多くの野菜に被害を及ぼす害虫となっているからだ。
 ナスの表面にケロイド状のひっかき傷のようなものがあれば、それがアザミウマのいたずらの痕だ。 よく見かけるのは1mmか2mmほどのちっぽけな虫で、英語の発音そのままに、スリップスと呼ぶ人も多い。
 
 そのウマがなぜ、牛にも化けるのか。
 それは、ちょっとしたクイズに使えそうである。
 アザミウマの名は、1890年代のおわりごろ、昆虫学者の松村松年が付けたものだという。現在の兵庫県明石市の出身で 、当時の子どもたちの遊びが着想のもとになったと伝えられる。
 現在ではほとんど見ることがない光景だが、そのころの子どもたちはアザミの花を手のひらの上でたたき、「馬出よ! 牛出よ!」とはやし立てながら、花の中から出てくる小さな虫の数を競ったという。
 それらは花粉を食べるアザミウマだったと想像されるが、農家のところに現れるものは果実を傷ものにするだけでなく、観賞用植物の花弁の色も変えたりする。なんともやっかいな虫であり、ハウスで多く見られることから、地球温暖化を先取りしたような虫だという声も上がっている。
 それはともかく、そんなわけでアザミから出てきた虫は牛にもたとえられた。
 嫌われる牛がらみの虫ではウシアブも忘れてはいけないだろう。でっかいアブだからウシアブというのは、特にひねりもなく、実にわかりやすい。
 これ以上、虫の評判を落とすと申し訳ないから、ちょいと気分を変えて、きれいどころならぬ、かわいいどころのカタツムリに登場してもらうとしよう。
 どうしてカタツムリなのかは、おそらくおわかりかと思う。 漢字で「蝸牛」と書くことは、すでにふれた動植物以上に有名だろう。
 室町時代に生まれた狂言に、その名も「蝸牛」という演目がある。
 おなじみのキャラクター・太郎冠者が主人から命じられた長寿薬「蝸牛」を探しに行く。ところが太郎冠者は、それがどんなものなのか知らない。そこで、竹やぶで休んでいた山伏が、太郎冠者をからかうといった内容だ。
 「雨も 風も 吹かぬに 出ざ 釜 打ち割ろう でんでん むしむし でんでん むしむし」とはやす。
 この「出ざ 釜 打ち割ろう」ということばが現代ではわかりにくいように思うのだが、それはアザミウマ遊びをした子どもたちと同じノリである。
 釜というのはカタツムリの殻のことであり、殻から出てこないなら、その殻を壊してしまうぞというような意味だろう。
 太郎冠者が主人に言いつけられたカタツムリはやぶの中にいて、頭が黒く、腰に貝をつけていて、ときどき角を出すという。しかも、人間くらいの大きさになるものもあるということだった。
 そんなに大きなカタツムリはさすがにいないが、太郎冠者は牛ぐらいのカタツムリを想像したようだ。

 丑年にちなんだ動植物で重要なのを忘れていた。
 ウシガエルだ。
 丑年はともかく、外来種の話をする時には必ずと言っていいほど取り上げられる。
 生態系を乱す悪者として紹介されることがほとんどだが、それにしてもなあ、と釈然としないのは、ぼくだけではないだろう。
 1918年に初めて持ち込まれた際には、日本人の胃袋の足しにするのがねらいだった。
 田んぼや沼、池、用水路など、すみかになる場所はいくらでもある。そこで虫を食べてくれれば、農薬要らずの害虫ハンターにもなる。
 ふえたものは住民が自由にとっていいし、食べたり売り買いしたりするようになれば経済的な効果も期待できる。
 ――とまあ、こう考えたらしい。
 そして計画通りに増殖したものの、大きな誤算があった。
 子どもの疳(かん)の薬として焼いて食べさせることはあっても、肉や魚のように料理素材としてカエルを使う習慣は日本になかったからだ。
 だったらとアメリカに輸出し、外貨の稼ぎ頭にもなった時代もあるのだが、農薬の残留が問題になって、輸出もストップした。
 そうなったらもう、ウシガエルは邪魔者でしかない。
 しかも在来生物をえさにする悪食だから、打って変わって、目の敵にされるようになった。いまも駆除の様子がニュースになる。
 だが、ぼくがよく通う川では見る機会が減っている。
 姿は見えなくても、あのぶおーんという牛が鳴くような低音は聞こえたものだが、それを耳にすることもなくなった。
 ウシガエルは丑年を、どんなふうに過ごすのだろう。
写真 上から順番に
・ハコベの仲間の中では大きい種類だというので、ウシハコベと名づけられたようだ
・左:ウミウシは小さくてかわいいものが多い。頭にはたしかに、牛の角のようなものがある。決してかたくはないのだけれど
・右:カミキリムシが「天牛」なのはよく知られていると思ったら、そうでもないような。このカミキリムシの格好、何かを訴えたいのかな?
・ウシカメムシ。「角」というから触角だと思ったら大間違い。言ってみれば、いかり肩なんだよね
・左:オスのエゴヒゲナガゾウムシにはなるほど、立派な「角」がある。牛にたとえたのもうなずける
・右:「ウマヅラ」と称されるメスのエゴヒゲナガゾウムシ。オスの「ウシ」が先にあっての命名だろうね
・アザミウマ。この姿から連想する生き物は何か。その問いに答えるのは難しい
・アザミの中から出てくるのは馬か牛か。むかしの子どもたちの興奮の遺伝子は、現代っ子にも伝わっているのだろうか
・カタツムリには角がある。動きもゆったりしている。牛にたとえたのは正解かもね
・憮然とした表情にもみえるウシガエル。国策で呼び込まれた彼らに罪はないと思うのだが、どうだろう
・「オラ、知らねえ」。そんな感じで、ゆうゆうとかえる泳ぎをするウシガエル

 
 
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