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アイスランドの火山噴火で冷夏? (あぜみち気象散歩6)  2010-05-28

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
 火山噴火の影響で異常気象が起こることを最初に発見したのは、アメリカのベンジャミン・フランクリンだった。1783~84年にアメリカ東部を襲った大寒波は、アイスランドのラーキ山の大噴火が原因だと指摘した。同時期には浅間山の噴火もあり、日本の天明の飢饉など、世界各地に飢饉がおこった。その約230年後の今年4月14日、アイスランド南部エイヤフィヤトラヨークトル氷河の火山が噴火した。
 
 欧州上空では火山灰による視界不良やエンジンへの悪影響が懸念され、各地で空港が1週間程閉鎖されるなど空の便が混乱した。5月半ば、再び噴火の影響と上空の風向きによって、火山灰は欧州一帯から北アフリカ、中東まで到達した。アイスランド大学地球科学研究所によると、噴煙は5月12日に上空約6kmに達し、付近では小規模な地震が続き、噴火はまだやみそうな気配はないという。
 
 噴火が長引いているので天候への影響が懸念され、ガスやチリが大気中に浮遊し、日本は冷夏の恐れがあると一部で報道された。しかし、これまでの噴火の情報から考えると、今のような噴火活動では、たとえ1年続いても異常気象はなさそうだ。
 
 というのも、天候に影響を与える火山噴火は、火山灰が成層圏(上空約10~50km)まで吹き上がり、成層圏内に亜硫酸ガスが大量に運ばれる必要があるからだ。
 
 成層圏内では次のような変化がおこる。噴出物に亜硫酸ガスが多く含まれていると、亜硫酸ガスは成層圏内で酸化して硫酸ガスになり、それが粒子化して硫酸または硫酸塩のエーロゾルとなる。エーロゾルが増えると、太陽光線を吸収したり、散乱させ、地上に届く日射量を減らす。これをパラソル効果と呼び、地上に直接届く太陽光線は約20%減少する。エーロゾルは重力によって下降し、いずれ地上に落下するが、成層圏に浮遊している時間が長いので、地球全体に広がり日射量の減少が長期間続き、地上の気温が下がる(図1)
 
火山噴火とパラソル効果
図1 火山噴火とパラソル効果
 
 火山噴火は、亜硫酸ガスが主体の場合と、ケイ酸塩が主体の場合と2通りある。ケイ酸塩は粒が大きいので成層圏まで上昇しても早く落下し、雲ができる対流圏(上空約10km以下)で、雨や雪に落とされる。1980年5月のアメリカのセントへレンズ火山噴火は、山の形が変化してしまうほどの大噴火だったが、主な噴出物はケイ酸塩だったので異常気象は起こらなかった。
 
 今回のアイスランドの噴火では、火山灰の主成分は分からないが、4月に噴煙が一時的に上空11km達した後、5km以下に弱まった。5月半ばの噴火でも6km程度だったので、たとえ亜硫酸ガスが多くても成層圏には届かない。噴煙の高さが10km以下の噴火では、数カ月で火山灰は落下し、天候には影響を及ぼさない。20世紀最大規模といわれた1991年のピナトゥボ山噴火では噴煙は上空30~40kmに達し、エーロゾルは成層圏に浮遊して地球の平均気温は0.2℃程下がった(図1)
 
 過去に地球規模の低温をもたらした噴火では噴出量が多い。ピナツゥボ山は7立方キロ。1783年のアイスランドのラーキ山では15立方キロ。1815年のインドネシアのタンボラ山では150立方キロにも達した。今年4月のアイスランドの噴火では、活発だった最初の3日間でも0.14立方キロにすぎない(表1)
 
表1 火山噴火の噴出量
火山噴火の噴出量
 
 今後、アイスランドの火山噴火の規模が拡大し、成層圏に大量の亜硫酸ガスが注入される噴火が長期間続けば、世界規模で冷夏や寒波などの異常気象発生の可能性があるが、現状のような噴火では、航空路は灰の脅威にさらされるが、天候への影響はなさそうだ。

 
 
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