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食品ロスを減らし、温暖化防止にも貢献する (松永和紀の「目」8)  2010-09-02

●科学ライター 松永和紀  

 
 地球温暖化を防ぐために、暮らしの中で何に気をつけていますか? 空調の設定温度を少し上げようとか、省エネ家電に買い替えようとか、いろいろな取り組みがあることでしょう。でも、意外に気付かれていないのが食事におけるポイント。私は、なにより重要なのは食べ残しをせず平らげることだと思います。
 
 農産物の生産には、農薬や化学肥料が必要ですが、これらの製造に石油は欠かせません。田植機、除草機、収穫機を動かすにもエネルギーは必要。堆肥を農地へ運ぶトラックも、収穫物を消費者へ届ける冷蔵車も、軽油がなくては動きません。畜産や漁業も、大量のエネルギーを使っています。
 
 現代の食料生産は、化石燃料を大量に使い、CO2を排出し、温暖化にも影響を与えてやっと得られているのです。そんな食品を捨ててしまう。こんなに無駄なことはありません。
 まだ食べられるのに捨てられてしまうものは「食品ロス」と呼ばれ、年間に500万から900万t発生していると考えられています。農水省が昨年(2009年)の外食産業の食品ロスについて調査し、8月初めに結果を発表していますので、紹介しましょう。
 
食品ロスの現状
 
 調査結果によれば、昨年は食堂・レストランで3.2%、結婚披露宴で13.7%、宴会で10.7%、宿泊施設で14.8%の食べ残しが出ました。つまり、結婚披露宴であれば、提供された食事の1割以上が皿に残されて捨てられてしまうということです。
 
 調理品別にみると、食堂・レストランで食べ残しの割合が多いのは(1)野菜が主体の料理(食べ残し量の割合6.5%)、(2)スープ類(同5.4%)、(3)米が主体の料理(同2.9%)。漬物やサラダなどは、ついつい残しがちになってしまいますね。
 
 ところが、結婚披露宴になると状況は変わります。食べ残しの割合が多いのは(1)果実が主体の料理25.5%、(2)米が主体の料理20.7%、(3)パンが主体の料理20.2%。コース料理で最初の方は食べるものの、祝宴が進み酒が入るともう食べきれない、というのが、披露宴の常。その状況をそのまま、反映しているようです。
 
 
 農水省は毎年度、食品ロスについて調査していて、外食産業についても2006年度、調べています。その結果を見ると、食品ロスの割合は、食堂・レストランで3.1%、結婚披露宴22.5%、宴会15.2%、宿泊施設13.0%です。当時と比べると、2009年は結婚披露宴や宴会では改善が進んでいますが、まだまだ努力の余地あり、ということでしょう。
 
 結婚披露宴や宴会は、祝い事なので食事もたっぷりと、という感覚が働き、量がどうしても多めになってしまいます。食べる側の努力と共に、食事を提供する側の適量を出す工夫も必要です。
 
 
 私は立食形式の懇親会に出ることが多いのですが、名刺交換をし談笑していると、食べる機会を逸してしまいます。たくさん残っているおいしそうな食品を横目に帰りながら、持ち帰れたらいいのになあ、と思います。
でも、ホテルなどで持ち帰り、いわゆるドギーバッグを認めているところはほとんどありません。尋ねると、「持ち帰ってもすぐに食べてもらえず、しばらくたってから食べて食中毒が発生した場合、持ち帰った人の自己責任として納得してもらえるかどうかわからない」という答えが返ってきました。
 
 アメリカではドギーバッグは普通のことで、食中毒になったと飲食店にねじ込んでくる人はいないそうです。でも、日本のホテルなどは、そんな恐れを抱いている。不幸な事態です。
 日本でも、昔は、披露宴や法事の料理を折り詰めにして持ち帰っていました。もっと柔軟に、でも、個々が自己責任を明確に意識しながら食品をきちんと食べる。そんな社会を取り戻したい、と切に願います。
 
 
参考文献
農林水産省・平成21年食品ロス統計調査(外食産業調査)結果の概要
政府統計の総合窓口・平成18年度食品ロス統計調査報告

 
 
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