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台風接近数が多かった5月 (あぜみち気象散歩19)  2011-06-29

●気候問題研究所 副所長 清水輝和子  

 
5月に台風接近2個
 今年は早くも台風の影響が多くなっている。台風シーズンはまだ先なのに、5月には台風が2個も接近し、各地で大雨や強風に見舞われた。台風が5月に本土(北海道、本州、四国、九州)へ2個も接近したのは1951年の統計開始以来始めてのことだ。5月の太平洋高気圧は、本州の南海上で例年より西への張り出しが強かったために、高気圧の西から北側の縁辺を通り、南西諸島から本州の南岸を進んだ(図1)
 
5日平均500hpa平均天気図高度および平年偏差
図1 5日平均500hpa平均天気図高度および平年偏差
  2011年5月6~10日 (気象庁の図から作成)

 
 
記録的に少なかった昨年の台風発生数
 昨年は台風の発生数が少なかった。春までエルニーニョ現象が続いたので、フィリピン沖の海面水温は例年より低く、台風1号が3月22日に発生した後、2号の発生は遅く7月11日だった(図2)。夏にはラニーニャ現象が発生して、フィリピン沖の海面水温は高くなったが、秋にかけても発生のペースはゆっくりで、図2のように各月とも平年の発生数を下回った。そして、年間の発生数は平年ならば27個あるのに、昨年は13個も少ない14個で、1998年の16個を下回り、統計開始以来最も少なくなった。
 
2010年の台風月別発生数
図2 2010年の台風月別発生数 気象庁
  赤:発生数、青:平年値(1971~2000年の30年平均値)

 
 少なかった原因は昨年の猛暑と関係がある。図3の赤い線で囲まれたフィリピンの東の海域は、例年ならば台風がよく発生する台風のふるさとだ。ここでは年間に16個程発生するのに、昨年は5個しか発生しなかった。昨年はこの海域で太平洋高気圧が強く、下降気流となっていたので、台風発生に必要な強い上昇気流は抑えられ、対流活動は不活発だった。
 太平洋高気圧がフィリピンの東海上から日本付近にかけて強かったために、台風は太平洋側には接近できず、接近数も7個と平年より約4個少なかった。上陸台風は2個で平年より0.6個少なく、地点は秋田と福井で、いずれも日本海側からの上陸だった。
 
2010年の台風経路図
図3 2010年の台風経路図 気象庁
  経路の両端の●と■は台風(第1号~第14号)の発生位置と消滅位置、数字は台風番号を示す。赤枠は北緯20度以南、統計120度以東の領域を示す

 
 フィリピンの東沖の発生は少なかったが、一方で南シナ海では多かった(図3)。昨夏に発生したラニーニャ現象は急激に強まり、とくに赤道太平洋中部の低水温が西まで広がったので、海水温の高い台風発生海域も西寄りにシフトした(図4)。そのために南シナ海での発生が多くなった。
 とくに、8月末から9月初めにかけて南シナ海では6号から10号が次々と発生した。そこで上昇した気流は東側に下降して、強かった太平洋高気圧をさらに強め、9月に入っても猛暑日が続くきびしい残暑となった。
 
月平均海面水温平年偏差2010年9月
図4 月平均海面水温平年偏差2010年9月 気象庁
 
 
今年は台風に注意
 今年は6月も台風の発生は例年より多く、10日に3号が発生したのち、21日に台風4号、22日には台風5号と続けて発生し、5号は九州の西の海上を北上した。フィリピン付近の海面水温は高く、対流活動は活発になっているので、平年より早いペースで発生している。また、昨年と違って、フィリピンの東沖で多く、日本に接近しやすい海域で発生している。
 梅雨の時期や秋雨の頃には日本付近に前線が停滞することが多く、台風から前線に向かって水蒸気が多量に運ばれるので、台風が離れていても大雨の恐れがある。東日本大震災の影響で地盤のゆるんでいる地域もある。今後秋にかけて、台風の動向には注意が必要だ。

 
 
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