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トラ虫――黄と黒のシンフォニー(むしたちの日曜日93) | 2022-01-17 |
| ●プチ生物研究家、ときどき児童文学者 谷本雄治 | 年が改まると、干支にちなんだ生き物を取り上げたくなる。 ことしは寅年。トラにちなんだ生き物なら、いくつかありそうだ。 そう思い、これまでに撮った写真の中から選びだした。 生きたトラが初めて日本人の目にふれたのは、西暦890年ごろらしい。だが近年は、地球温暖化と森林破壊、密漁などによって絶滅が心配される動物になっている。 言い換えると、人間がトラを追い詰めている。そう思うと、なんとも嘆かわしい。   そんなトラの名を持つ虫として最初に頭に浮かんだのは、トラカミキリだ。黒と黄の虎斑模様にちなんで、トラフカミキリと呼ばれることもある。 漢字で書くと、「桑虎虫」。桑の木の害虫としても知られるから、養蚕農家には良く思われていないかもしれない。 桑にちなんだカミキリムシといえば、そのまんまの名前を持つクワカミキリもいる。わが家の近所の桑の木では、クワカミキリを見てもトラカミキリを見ることはない。 トラカミキリとの出会いはいつも突然で、たいていは一瞬、たじろいでしまう。 ぱっと見た感じは、ハチそのもの。虫を見慣れた昆虫愛好家はともかく、スズメバチやアシナガバチを思い浮かべる人が多いのではないだろうか。   「壁虎」という漢字もある。だからといって壁に張り付くトラを思い浮かべたとしたら、それは大変な誤解だ。「へきこ」と読み、その正体はヤモリである。 そんな話は、これまでにも何度かした。 すると、こんな声が毎度のように上がる。 「ヤモリって、家を守るとか書くんじゃなかったっけ?」 それも正しい。家ではないが、たしかに「宮守」とも表記し、水にすむイモリの「井守」と対になる。   ひところに比べるとわが家で見かけるヤモリの数は減ったが、それでも毎年、「わたしらはホレ、こうして生きとりますぜ」とでも言うように姿を見せてくれる。目が大きいせいか、なかなか愛きょうのある生き物だ。 トラにたとえるくらいだから、さぞかしどう猛な生き物だと思われるかもしれない。口からはみ出すようなナナフシを食べているヤモリを見たことがあるから、当たっているともいえる。 ある晩のこと、壁にヤモリと虫がいる場面に出くわした。 といっても、ねらうのはとても小さな虫だ。腹の足しになりそうもない、ちっぽけなハエのようなものだった。しかも襲いかかるのをためらうかのように、じーっと見ている時間だけが流れた。 付き合いきれなくなってその場を離れたが、彼はさて、どうしたのだろう。もしかしたら仕留められなくて、いじけていたかもしれない。   「フグの王様」と呼ばれるトラフグなら、そんな事態には陥らない。神経毒のテトロドトキシンを持ち、人間だってイチコロだ。 相手にできるのは、免許を持った調理人だけ。よほどの無法者でなければ、まさに「フグは食いたし、命は惜しし」となる。それでも縄文の昔から日本人はフグを食べてきたそうだから、ニンゲンはトラよりもよほど恐ろしい。 もっともそのフグの毒も、近ごろは変わってきた。ニンゲンの食い意地は、毒を持たないトラフグの養殖に成功した。 フグといえば体を膨らませる魚として有名なだけでなく、どことなくアンバランスでユニークな体つきだ。腹びれがなく、背びれ・尻びれを使って泳ぐところから、そう感じるのかもしれない。 それでいて体の向きを変えることなく進む方向を変えるなんて、竜宮城の新年の出し物として通用しそうである。 フグは生まれつき、毒を持っているわけではない。えさとなる巻き貝がテトロドトキシンを含む海洋細菌を食べていて、その毒が貝に蓄積される。それをフグが食べることで、フグの体にだんだん毒がたまるのだそうだ。 それにしてもなぜ、黄や黒の体色でもないのにトラフグというのか。体の黒い斑点模様からトラを連想したのではないかといわれるが、そのたしかな理由はいまひとつ、はっきりしない。   トラがらみの海の生き物で面白いのは、アメフラシだ これも漢字の話になるが、アメフラシは「雨虎」とも書く。「海兎」と書くことはよく知られているが、トラにも化けるとは驚いた。雨の中でトラを見た人がいて、その模様に似ているとでも思ったのだろうか。 「雨虎」も命名のいわれは不明とされるから、なおさら気になる。 それでも、アメフラシをいじめると時化になるという俗信もある。これ以上追求するのはよそう。   アメフラシが暮らす海の中には、ウミトラノオという海藻もある。ホンダワラの仲間で、ぼくが住む千葉で見るのはせいぜい数十センチでしかないが、地域によっては1mを超す長いものもあるそうだ。 ウミトラノオがなぜトラにたとえられたかというと、まさに文字通り、トラの尾に似ているからだという。そう言われてもなかなかトラに結びつかないが、それはぼくの想像力が貧困だということだろう。 見た目のよく似たヒジキとちがって、食用にはならない。それなのに踏んづけられても乾燥しても平気らしい。それでヒジキが育つようなところでは、厄介者となっている。踏んづけられてもなんともないあたり、なるほどトラのたくましさを持つ海藻ではある。
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| トラノオは、陸上にもある。ひとつは園芸植物・サンスベリアの俗称であり、もうひとつは野生に生えているオカトラノオという白い花を咲かせる植物だ。 多肉植物の一種として扱われるサンスベリアの模様は、トラの尾に見えないこともない。オカトラノオの花穂は先端にいくほど細くなっていて、トラというよりもネコのしっぽを思わせる。個人的には好きな植物のひとつだ。   こんどは突然、空の話に飛ぶ。名前に「トラ」を持つ鳥といえばトラツグミ、トラフズクあたりが思い浮かぶ。生きているものはどちらも見たことがないが、トラツグミの標本にはお目にかかった。平安時代、京の都の人々を震え上がらせた魔物の正体がこの鳥だといわれている。 「平家物語」などによるとヌエの顔は猿、胴体はタヌキ、その手足はトラ、しっぽはヘビだった。そして薄気味悪い声で、ヒョーヒョーと鳴くのだ。 実際のトラツグミを見れば、黄色と褐色の虎斑模様からの命名だとわかる。カガクとやらが浸透してカッパも人魚も姿を消したが、妖怪ファンのひとりとしてはせめて、ヌエぐらいは生き延びてほしかった。 その意味ではいまも恐ろしげな鳴き声は聞けるのだから、感謝したい。金属音にしか聞こえないのがちょいとさびしいが、表記すればなるほど、ヒョーヒョーとなる。     英語でいえば、トラはタイガー。とくれば次はタイガービートル、つまりハンミョウの出番となる。 小さな虫だから無視してもいいが、にらめっこをすればトラも驚くほど鋭く大きな牙がある。昆虫学的には大あごと言うべきだろうが、見た目はびっくりの牙だ。
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| 名前だけはなんとも迫力のあるフルーツが、「タイガーメロン」である。いつか出かけた町の店で見かけた。マクワウリに近い品種らしいが、ことしは干支にちなんで増産するのだろうか。 その「タイガーメロン」を見て思い出したのがジョロウグモのからだの模様だ。ビロード感があり、黄と黒の縞模様を見せる。英語ではもしかしてタイガー・スパイダーとでも呼ぶのかと思って調べたら、なんのことはない、「ジョロウ・スパイダー」だった。   トラの名を持つ虫でまとめたかったが、どうもズレていった。 えーと。トラ、トラ、トラ……。そう唱えたら、真珠湾ではなくトラマルハナバチが浮かんだ。農家にはよく知られるマルハナバチの一種である。 コスモスやアザミの花にやってきたものを見ることが多かった。ハチマンタイアザミのように、総苞からネバネバ物質が出るアザミもあるから、花にとまって動かなかったトラマルハナバチを見たときには、もしかして捕まったのかなと思った。 それなら、アザミにトラまったトラマルハナバチ、なーんておやじギャグに使えるかもしれない。しかしそれはまったくの見誤りで、花の中に頭を突っ込んでいただけだった。     ぼくが撮影した蛾の仲間には、トラガやトビイロトラガもいた。トラガとはいうが、トラというよりもヒョウに見える。ヒョウ柄となるとヒョウモンチョウの仲間やユウマダラエダシャクなどがいるが、まずはトラの名を持つトラガに譲ることにしよう。 トラガによく似た蛾に、コトラガがいる。正直言ってぼくにはすぐに、両者の区別がつかない。 とはいえ、どちらもトラの名を持つということで、問題はないだろう。 トビイロトラガは実のところ、トビなのかトラなのか迷ってしまう名前だ。基本的にはトラガが先にあって、そのあとでとび色の蛾が現れたので、トビイロと付け足した命名になったのだろう。よく話題になるトゲアリトゲナシトゲトゲに比べれば、ずっと明解ではあるのだが、やっぱりまぎらわしい。 だがまあ、そんなことはどうでもいいのだ。 とりあえずは寅年の始めということでのトラの生き物尽くしである。 大事なのは、トラの子ども。寅年に虎の子が逃げだすような事態には陥らないように気をつけましょうね。   写真 上から順番に ・スズメバチそっくりのトラカミキリ。パッと見た感じはハチなので、まずは身構える。だが、それでいいのだ。ハチを警戒するに越したことはない ・ヤモリ。ちっぽけな虫をじーっと見つめて……そのうち、どこかへ消えた ・名前の由来がいまひとつはっきりしないトラフグ。せめて黄と黒の皮だったらよかったのに ・ウミトラノオ。トラのしっぽに似ているそうだが、それにしてはかわいらしい ・オカトラノオ。愛らしい白い花が魅力的な植物である ・左:「ヌエ」の正体はこのトラツグミ。はく製なので、怖くありません。鳴くこともないです ・右:ハンミョウ。英名が「タイガービートルだからね ・タイガーメロン。どこかの球団ファンに薦めたいメロンだ ・左:トラマルハナバチ。ピンクのコスモスとの相性はバツグン? ・右:コトラガ。トラガに比べて特に小さいというわけでもないのに、小物扱いされる不幸な蛾?
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コラム:寒暖変動しながら暖冬(あぜみち気象散歩102) |
秋に続き、この冬も寒暖変動が激しかった。11月頃から約2週間の周期で気温が変動した(図1)。
暖冬だが約2週間ごとに寒気入り大きく変動
図1 地域平均気温平年偏差5日移動平均時系列(2023年12月~2024年2月)(気象庁)... |
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